第111回日本精神神経学会学術総会 教育講演

 

第111回日本精神神経学会学術総会 教育講演

教育講演 8. 精神療法の学び方・活かし方 ―Japan Psychotherapy Week(私案)

演者:井上 和臣(医療法人内海慈仁会 内海メンタルクリニック・認知療法研究所)
日時:6月4日(木)14:35 – 15:35 E 会場(大阪国際会議場 10F 1001+1002)
抄録:

精神療法の学び方・活かし方ーJapan Psychotherapy Week(私案)
How to Learn and Practice Psychotherapies – Japan Psychotherapy Week (My Private Ideas)

Japan Psychotherapy Week(JPW)は,我が国の精神科臨床に欠かすことのできない複数の精神療法,すなわち精神分析療法,森田療法,行動療法,認知療法・認知行動療法等について討議し学ぶ機会として,演者が年来夢想してきたものである。精神療法に関わる複数の学会が同時に,あるいは重複期間を含みながら相前後して,同一の会場で開催される,それがJPWである。
発想の一つは精神科治療における鑑別治療学にある。Francesらによる『鑑別治療学』では,さまざまな精神療法を,洞察的,指示的,体験的なものに分類する。洞察的なものの代表が精神分析療法,体験的なものとしてクライアント中心療法,指示的なものは行動療法がある。認知療法は洞察的なものと指示的なものにまたがっているのが独特である。
複数の学会が関与して実現される「週間」の雛形は,Digestive Disease Week(DDW)の我が国での展開にある。第22回日本消化器関連学会週間(JDDW2014)は神戸で5学会(消化器病学会・消化器内視鏡学会・肝臓学会・消化器外科学会・消化器がん検診学会)が同時に開催された。
本抄録の提出時点では実施前夜であるものの,演者の主宰するJapan Psychotherapy Week企画運営委員会では,Japan Psychotherapy Week 2015(JPW2015)を,神戸旧居留地にあるホテルにおいて実施する予定である。JPW 2015では,ほぼ1週間の間隔をあけ,2夜にわたって,3名の著名な精神科医の講演を計画している。
もちろんJPW2015は学術講演会である。しかし,参加者が食事(と酒?)を摂りながら,講演を聞き論議するという形式を考えている。ゆったりした雰囲気の中で,円卓をそれぞれ囲み,五感のすべてを活動させて,我が国における精神療法にまつわる話題を賞味するという趣向である。プラトンの描く『饗宴(シュンポシオン)』では,アテナイのアガトンの邸宅に集うパイドロス,エリュクシマコス(医師),アリストファネス,そしてソクラテスらが,愛(エロース)を主題に自説を順に述べていく。シンポジウムの語源になるシュンポシオンとは,一緒に飲むという意味らしい。JPW2015で古代の饗宴の醍醐味を現出できれば,と計画しているところである。
本学会の精神科専門医に求められる研修ガイドラインでは,支持的精神療法,認知行動療法,行動療法,精神分析療法,集団精神療法,森田療法,内観療法を説明あるいは理解することが目標となっている。大阪の天満天神繁昌亭のようにJPWが定席になる日が訪れるなら,精神科医のアイデンティティをいっそう豊かにする機会が増えることになる,その予感に演者は憑かれている。