精神および行動の障害 ICD-10

世界保健機関(WHO)による『国際疾病分類第10版(ICD-10)』のFコードに「精神および行動の障害」は分類されています。気分(感情)障害はF3になります。気分(感情)障害には、双極性感情障害(躁うつ病)、反復性うつ病性障害、持続性気分(感情)障害などが含まれます。
  1. (F0)症状性を含む器質性精神障害
    1.1(F00)アルツハイマー病の認知症
    1.2(F01)血管性認知症
  2. (F1)精神作用物質使用による精神および行動の障害
    2.1(F10)アルコール使用による精神および行動の障害
  3. (F2)統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害
    3.1(F20)統合失調症
  4. (F3)気分(感情)障害
    4.1(F31)双極性感情障害(躁うつ病)
    4.2(F33)反復性うつ病性障害
    4.3(F34)持続性気分(感情)障害
  5. (F4)神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
    5.1(F40)恐怖症性不安障害
    5.2(F42)強迫性障害(強迫神経症)
  6. (F5)生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
    6.1(F50)摂食障害
  7. (F6)成人の人格および行動の障害
    7.1(F60)特定の人格障害
  8. (F7)精神遅滞
  9. (F8)心理的発達の障害
  10. (F9)小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害および特定不能の精神障害

精神障害の診断・統計マニュアル 第5版

アメリカの最新の『診断と統計のためのマニュアル第5版』では、気分障害という診断がなくなりました。従来は気分障害の下位分類であった、双極性および関連障害群と抑うつ障害群が、独立した診断カテゴリーになっています。双極性および関連障害群には、双極I型障害のほか、最近注目されている双極II型障害が含まれます。
  • 神経発達障害群
    ➢知的能力障害(知的発達障害)
    ➢自閉症スペクトラム障害
    ➢注意欠如・多動性障害
  • 統合失調症スペクトラムおよび他の精神病性障害群
    ➢妄想性障害
    ➢統合失調症
    ➢統合失調感情障害
  • 双極性および関連障害群
    ➢双極I型障害
    ➢双極II型障害
  • 抑うつ障害群
    ➢大うつ病性障害
  • 不安障害群
    ➢社交不安障害(社交恐怖)
    ➢パニック障害
    ➢広場恐怖症
  • 強迫性および関連障害群
    ➢強迫性障害
    ➢身体醜形障害
  • 心的外傷およびストレス因関連障害群
    ➢心的外傷後ストレス障害
    ➢適応障害
  • 解離性障害群

地球規模で見た世界の健康状態 (世界保健機関 1997)

世界保健機関(WHO)による「地球規模で見た世界の健康状態」からの引用です。1997年と少し古いデータになりますが、うつ病を含む情緒障害に苦しむ人たちが3億を超えています。身体疾患と比較しても、ずいぶんたくさんの人の健康を損なっていることがわかります。

 
 世界人口推計  58億人
 癌  600万人(年間死亡者)※新規患者数1,000万人
 循環器疾患  1,500万人(年間死亡者)
 慢性非特定肺疾患  300万人(年間死亡者)
 糖尿病  1億3500万人
 視覚障害  1億8000万人
 聴力障害  1億2100万人
 暴力(傷害)  400万人(年間死亡者)
 てんかん  4,000万人
 統合失調症  4,500万人
 認知症  2,900万人
 情緒障害(うつ病を含む)  3億4000万人
 喫煙に起因する疾患  300万人(年間死亡者)
飲酒・麻薬・向精神性物質 12万3000人(年間死亡者)

精神障害の有病率(6カ月)

これはアメリカで行われた研究からの引用です。気分障害についてみると、受診している人がわずか3分の1である、という事実に驚かされます。

 
患者数(百万人) 患者/米国成人(%) 受診患者(%)
不安障害 13.1 8.3 23
アルコール・薬物乱用 10.0 6.4 18
気分傷害 9.4 6.0 32
統合失調症 1.5 1.0 53

気分(感情)障害の詳細(F30-F39) ICD-10(1992)

世界保健機関(WHO)による『国際疾病分類第10版(ICD-10)』のF30からF39に分類されている気分(感情)障害について、さらに細かな分類を示しています。クリニックやリワークデイケアでは、双極性感情障害(躁うつ病)、うつ病エピソード、反復性うつ病性障害、気分変調症に出合うことが多くなります。
  • F30躁病エピソード
  • F31双極性感情障害<躁うつ病>
  • F32うつ病エピソード
  • F33反復性うつ病性障害
  • F34持続性気分(感情)障害
    ➢F34.0気分循環症
    ➢F34.1気分変調症
  • F38他の気分(感情)障害
  • F39特定不能の気分(感情)障害

配置転換後のうつ病

以下の文章は、笠原 嘉氏の『軽症うつ病』 (講談社現代新書)からの引用です。赤色で示した部分は、引用者が重要と考える症状です。
配置転換後のうつ病に限らず、どの症状も多くの人に共通するものです。精神的側面だけでなく、睡眠や食欲といった身体的側面にも、うつ病の症状は出現します。
とても気が小さくなってしまった。直属の上司から注意をされると、いわれた言葉がトゲのようにあとあとまで胸につきささって、なかなか抜けない。電話がこわい。卓上の電話がなるとビクッとする。電話の話に即座に対応する力がない。決断力がなくなっている。毎日の小さな仕事についてどれを先にやるかとか、そういうなんでもない小決断ができない。迷ってしまう。集中力がおちた。今まで自慢だった持久力もガタガタになってしまった。すぐ仕事にあきて、時計を何度もみてしまう。出勤しても会社に近づくにしたがい、逃げ出したくなる。そういう自分が不愉快で、自己嫌悪にかられる。会社のためには自分がいないほうがよいのではないか、などと考えてしまう。

F32うつ病エピソード1

『国際疾病分類第10版(ICD-10)』のF32うつ病エピソードのときにみられる症状です。抑うつ気分や興味と喜びの喪失は重要な症状です。しかし、活力の減退による易疲労感の増大や活動性の減少が、就労維持には問題となります。他の一般的な症状に含まれる、自己評価と自信の低下、罪責感と無価値感、将来に対する希望のない悲観的な見方は、いずれも認知療法にいう「認知」に対応します。将来に対する希望のない悲観的な見方は、自殺の観念や行為と関連するものです。
  • 患者は通常、抑うつ気分、興味と喜びの喪失、および活力の減退による易疲労感の増大や活動性の減少に悩まされる。わずかに頑張った後でも、ひどく疲労を感じることが普通である。
  • 他の一般的な症状には以下のものがある。
  1. 集中力と注意力の減退
  2. 自己評価と自信の低下
  3. 将来に対する希望のない悲観的な見方
  4. 自傷あるいは自殺の観念や行為
  5. 睡眠障害
  6. 食欲不振

F32うつ病エピソード2

同じく『国際疾病分類第10版(ICD-10)』のF32うつ病エピソードについて書いたものです。身体症候群に含まれる症状はとくに重要です。「朝、いつもの時刻より2時間以上早い覚醒」は早朝覚醒と呼ばれます。「午前中に悪い抑うつ」は夕方には改善することが多く、気分の日内変動を示しています。「制止」とは行動面だけでなく、思考面にも現れます。頭の働きが鈍くなったとか、アイデアが浮かばなくなったと訴えられます。
  • うつ病エピソードは、少なくとも2週間続くこと
  • 対象者の人生のいかなる時点においても、軽躁病や躁病エピソードの診断基準を満たすほどに十分な躁病性症状がないこと
  • 主要な除外基準:このエピソードは、精神作用物質の使用、あるいは器質性精神障害によるものでないこと
  • 身体症候群:次の症状のうち、4項の症状が存在すべきである
  1. 通常なら楽しいはずの活動における興味や喜びの顕著な喪失
  2. 通常なら情緒的に反応するような出来事や活動に対する情緒的反応性の不足
  3. 朝、いつもの時刻より2時間以上早い覚醒
  4. 午前中に悪い抑うつ
  5. 著明な精神運動制止や焦燥が客観的に確認されること
  6. 著明な食欲低下
  7. 体重減少(前月に比べ体重の5%以上)
  8. 性的衝動の著明な減退

F32うつ病エピソード2

ICD-10やDSM-5のような、国際的に知られた分類が、最近の精神科臨床や研究には必須です。しかし、我が国発の分類、いわゆる笠原・木村分類は再評価されてよいと思います。症状の特徴だけでなく、治療への反応性も加えた分類ですので、実臨床で役に立ちます。重要なのは、I 型性格(状況)反応型うつ病、III 型葛藤反応型うつ病です。

  • I型 性格(状況)反応型うつ病
  • II型 循環性うつ病
  • III型 葛藤反応型うつ病
  • IV型 偽循環病性分裂病
  • V型 悲哀反応
  • VI型 その他の、この分類によってとらえられないうつ状態
(引用:『笠原嘉臨床論集』うつ病臨床のエッセンス みすず書房.2009)

性格(状況)反応型うつ病

性格(状況)反応型うつ病は、特徴的な病前性格の人が特有の状況変化に直面して発症するものです。典型的なうつ病像を呈し、上記の「配置転換後のうつ病」でお示ししたような、精神症状と身体症状を併せ持っています。抗うつ薬を用いた薬物療法への反応も良く、経過も良好で、半年程度で症状の消失(寛解)が得られます。

  • 病前性格
    ➢メランコリー親和型性格、執着性格
  • 発病状況
    ➢特有の状況変化
    ➢転勤、昇任、家族成員の移動、身体疾患、負担の急激な増加・軽減、出産、居住地の移動、愛着する事物・財産の喪失
  • 病像
    ➢精神症状と身体症状の双方を具備する典型的うつ病像
  • 治療への反応
    ➢抗うつ薬への良好な反応
  • 経過
    ➢概して良好(3~6か月で寛解)

うつ病の病前性格

  • メランコリー親和型性格、執着性格
    ➢几帳面、律儀、仕事好き、強い責任感、熱中、他人との円満な関係の維持発病までの社会的対人的適応能力は平均あるいは平均以上に良好である。
  • 循環気質
    ➢陽気と陰気の二極性。社交的、快活、明朗、淋しがりや、センチメンタル。

新型”うつ病“

最近、マスコミで取り上げられることの多い“新型”うつ病の一覧です。若者たちに多いとされるうつ病です。現代の世相を反映するうつ病なのかもしれません。

  • 非定型うつ病あるいは気晴らしうつ病(貝谷、 2007)
  • 現代型うつ病(松浪)
  • 未熟型うつ病(阿部、 1995)
  • 職場結合型うつ病(加藤)
  • ディスチミア親和型うつ病(樽味・神庭、 2005)
  • (引用:『笠原嘉臨床論集』うつ病臨床のエッセンス みすず書房.2009)

F30躁病エピソード1 F30.0軽躁病

うつ病とは逆の印象を与えるものが、軽躁病(けいそうびょう)と躁病(そうびょう)です。気分の異常な高揚があったり、易刺激性が明らかになります。易刺激性とは、些細なことにも怒りっぽくなることです。躁病エピソードは、楽しいだけでは済まなくて、いらいらが高じて他人と喧嘩になったり、要らぬものを借金するまで買い込んだり、とトラブル続きになりがちです。

  • 対象者にとって明らかに異常な気分の高揚もしくは易刺激的な気分が、少なくとも4日間は連続していること
  • 次のうち、少なくとも3項が存在し、そのために日常の仕事にある程度支障をきたしていること
  1. 活動性の亢進や落ち着きのなさ
  2. 多弁
  3. 転導性あるいは集中困難
  4. 睡眠欲求の減少
  5. 性的活力の増大
  6. 著明な食欲低下
  7. 軽度の浪費や、他の無茶な、またはいい加減な行動
  8. 社交性の亢進や、過度の馴れ馴れしさ
  • このエピソードは、躁病、双極性感情障害、うつ病エピソード、気分循環症、あるいは神経性無食欲症の診断基準を満たさないこと
  • 主要な除外基準:このエピソードは、精神作用物質の使用、また器質性精神障害によるものでないこと

F30躁病エピソード2 F30.1精神病症状をともなわない躁病

躁病では気分の変化が重要ですが、活動性の亢進(多動)や多弁も無視できません。とくに、リワークデイ・ケアのような集団の場では問題になりがちです。

  • 対象者にとって明らかに異常に高揚した、誇大的あるいは易刺激的な気分: この気分変化は、顕著なものであり、少なくとも1週間は持続していること
  • 次のうち、少なくとも3項が存在し、そのため日常の仕事に重大な支障をきたしていること
  1. 活動性の亢進や落ち着きのなさ
  2. 多弁(談話心迫)
  3. 観念奔逸や、考えがかけめぐるという主観的体験
  4. 正常な社会的抑制の欠如
  5. 睡眠欲求の減少
  6. 肥大した自尊心や誇大性
  7. 行動や計画における転導性や絶え間のない変化
  8. 向こうみずな、またはむちゃな行動、およびその危険性を自らは認めようとしない (例:浪費、分別のない事業、無茶な運転)
  9. 著明な性的活力の亢進や性的無分別さ
  • 幻覚や妄想を欠くこと、しかし、知覚の障害は起こることがある(例:主観的な聴覚過敏)
  • 主要な除外基準:このエピソードは、精神作用物質の使用、また器質性精神障害によるものでないこと

うつ病の診療指針(改訂3版)

根拠に基づく医療という動向の中、多数の診療ガイドライン・診療指針が登場しました。うつ病も例外ではありません。アメリカ精神医学会の提案する診療指針をあげてみました。我が国でも、日本うつ病学会のガイドラインがあります。

  • 急性期治療には、薬物療法、うつ病焦点型精神療法、薬物療法と精神療法の併用、他の身体療法(電気けいれん療法、経頭蓋磁気刺激法、光療法など)が含まれる。初期治療法の選択は、臨床像(重症度、併存症や心理社会的ストレス因の存在)や他の要因(患者の意向、過去の治療経験)によってなされる。いずれの場合も、精神医学的管理と統合すべきである。
  • 軽症から中等症の場合、抗うつ薬療法を初期治療として選択するのがよい。重症例には抗うつ薬療法を実施すべきである 。大多数の患者には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) 、 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) 、 mirtazapineあるいはbupropionが適している。
  • 軽症から中等症では、 うつ病焦点型精神療法単独の初期治療が勧められる。臨床的エビデンスを認めるのは、認知行動療法、対人関係療法などである。
  • 併用療法は、中等症から重症の患者の初期治療として実施できる。

うつ病の治療指針

うつ病の治療は、まずは、受診された方の症状を取り除くことを目的になされます。寛解とは症状が完全に、あるいはほとんどなくなることです。しかし、症状が消失したからといって、治療は終わりません。うつ病は再燃しやすいものです。いったんは良くなったように見えても、まだくすぶっていたりすると、症状がぶりかえすのです。継続期治療がいつの場合でも必要です。さらに、うつ病を何度か経験している方だと、新たなうつ病の出現を防止する必要があります。維持期の治療が不可欠です。



うつ病の治療 アメリカ精神医学会2000

うつ病に対する治療法は、うつ病の重症度と患者の意向を踏まえて、選択されます。通常は、精神医学的管理と呼ばれるものを基礎に、薬物療法や精神療法、それらの併用、あるいは電気けいれん療法が選択肢となります。


うつ病の治療

うつ病の薬物療法は、最近とくに目覚ましい進展を示しています。多くの治療薬の中から、重症度と患者の意向に見合う薬剤を選択できるようになったのです。精神療法についても、うつ病の症状に焦点を絞った治療法として、認知療法と対人関係療法がアメリカから移入されました。認知療法は、我が国の医療を支える保険制度の中に、2010年度の診療報酬改正以降、位置づけられています。


うつ病の小精神療法

最新の治療法はもちろん重要ですが、今も色あせない初期治療があるので、最後にご紹介しておきます。

うつ病の小精神療法です。うつ病の方が多かれ少なかれ、一時的にせよ考えておられることを、初期治療の冒頭で是正しようとします。「これは気のゆるみとか怠けだ」という思い(認知療法の「認知」)を正そうとするのです。うつ病の小精神療法は、今風に言えば、心理教育となるでしょう。

  1. 軽いけれども治療の対象となる「不調」であって単なる「気のゆるみ」や「怠け」ではないことを告げる
  2. できることなら、早い時期に心理的休息をとるほうが立ち直りやすいことを告げる
  3. 予想される治癒の時点を告げる
  4. 治療の間、自己破壊的な行動をしないことを約束してもらう
  5. 治療中、症状に一進一退のあることを繰り返し告げる
  6. 人生にかかわる大決断は治療終了まで延期するようアドバイスする
  7. 服薬の重要性、服薬で生じるかもしれない副作用をあらかじめ告げ、関心のある人にはその作用機序を説明する
(引用:『笠原嘉臨床論集』うつ病臨床のエッセンス みすず書房.2009)