認知療法は“こころの問題”を治療する新しい方法です。これをお読みいただくことによって、どんな“こころの問題”に認知療法は有効なのか、どうすれば認知療法があなたの役に立つのか、をあなたに知っていただきたいと思います。認知療法を受けられる方が疑問に思われる事柄にお答えする形で、認知療法についてご説明することにしましょう。

認知療法とはどんな治療法か?

“こころの問題”を治療するにはいろいろな方法があります。認知療法は言葉を用いた治療法です。治療は治療者と話をすることによって進められます。大切なのはあなたが治療に“参加する” ということです。ご自分の“こころの問題”に対処するために、あなたご自身が積極的になられる必要があります。もちろん最初は大変です。しか し、少しずつ“こころの問題”に取り組んでいこうとする姿勢が大切です。治療はあなたと治療者との共同作業なのです。

認知療法はどんな“こころの問題”に有効か?

認知療法は、気分が滅入ってきて、何もする気がなくなる病気、うつ病の治療法として始まりました。その後は、さまざまな“こころの問題” の治療に用いられています。とりわけ、不安やイライラや怒りなどの感情の問題、対人関係の問題、 神経症、過食症、アルコール依存症などに効果が期待できます。あなたの“こころの問題”に認知療法が活用できるかどうかについて、主治医と相談されることをお勧めします。

認知療法の基礎にはどのような考え方があるのか?

こんな場面を想像して下さい。風の強い夜、あなたは一人で眠ろうとしています。突然隣の部屋でガチャンという音がしました。その瞬間あなたの胸はドキッとして、恐ろしさに縮み上がります。 そのときどんなことをあなたは考えていたのでしょう? 「泥棒でも入ったのじゃないか」と考えていたかもしれません。すると、あなたの恐怖は強くなって、あなたは息をひそめて、そのままじっとしていることでしよう。ところが、そのときあなたは窓を閉め忘れていたことに気づきます。「窓から風が入って物が落ちた」という考えがひらめくのです。恐怖が少なくなったあなたは、何があったのか確認するために、隣の部屋をのぞきに行くことができるでしょう。
このように同じ出来事を見るにも、いろいろな見方があるようです。認知療法はこの物の見方に着目します。そして、物の見方が変わることによって、不愉快な感情や行動の仕方は変わってくると考えるのです。

認知療法にはどのくらいの期間 “参加”すればよいのか?

治療に“參加する”期間は、あなたの“こころの問題”がどういうものかによって変わってきます。一般的には20回くらい治療に“参加する”ことになります。場合によっては、あなたの“こころの問題”のすべてを解決できないことがあります。そこで、治療に先だって、何を治潦の中で改善したいのか、はっきりとした治療の目標を立てる必要があります。治療者と相談しながら、比較的短期間の治療で実現できそうな目標を立てるようにしてください。変えられるところから変えていこう、というのが認知療法のやり方です。

認知療法は病院や診療所の中だけで行われる治療か?

認知療法は入院中の方にも役立ちますが、普通は外来通院される方が中心です。そのため治療は病院や診療所の外来で行われることになります。 ただ、外来で治療者と話した事柄を、あなたが頭で理解しているだけでは意味がありません。あなた自身が実生活の中でそれを生かしていくことが非常に重要なのです。認知療法では、あなたに宿題を出すことによって、外来と家庭をつなぐ架け橋を作ります。処方された薬を家庭できちんと飲むのが大切であるように、認知療法に宿題は不可欠なのです。宿題が実行できているかどうかで、治療の効果に違いが出ると言われています。

薬物療法と認知療法はどちらが重要なのか?

あなたの“こころの問題”を治療するのに、薬物療法だけで十分な場合があるように、認知療法だけで十分な場合もあります。もちろん薬物療法と認知療法を一緒に用いることも可能です。薬物療法と認知療法の効果はそれぞれ別々の現れ方をします。薬物療法が身体から治すのに対し、認知療法は心の働きから変えていこうとする、と言ってもいいかもしれません。いずれにしても、治療法は治療者と相談しながらあなたが選択することです。ちなみに、認知療法に“参加する”ことによって、あなたは将来の“こころの問題”に対処する方法を学ぶことができます。認知療法の治癒期間は短いのですが、治療は将来までを見越して行われるのです。

STEP 認知療法の7つのステップ

  1. あなたが困っていること、あなたが解決したい問題をはっきりさせましょう。
  2. どういう場面でその問題が起こるのかを調べてみましょう。
  3. その場面で見られるあなたの感情や行動、そしてあなたの思考(物の見方)について調べてみましょう。
  4. あなたの思考(物の見方)があなたの感情や行動にどのように影響しているか調べてみましょう。
  5. あなたの思考(物の見方)が適切かどうか、あなたの役に立っているかどうか調べてみましょう。
  6. 同じ場面で別の思考(物の見方)ができないかどうか調べてみましょう。
  7. 別の思考(物の見方)を実行してみましよう。