認知行動療法

ここでは認知療法についてご説明します。

認知療法は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるペンシルベニア大学精神医学教室の教授、アーロン・T・ベック博士(1921年~)によって開発されました。現在もベック博士は、フィラデルフィアの認知行動療法研究所において、認知療法の研究・教育・臨床に精力的な取り組みを続けています。



認知行動療法 (cognitive-behavioral therapy)

認知療法は認知行動療法の中に含まれる治療法です。社会生活技能訓練(SST)が行動に軸足をおく治療法とするなら、認知療法は認知を重視すると言えます。忘れてならないのは、感情の問題を緩和するために認知から迫る、というのが認知療法だということです。気分が滅入ったり、不安に押しつぶされそうになっているときに、認知に修正を加えることができるなら、苦しく不愉快な感情が穏やかになることが期待できるのです。内海メンタルクリニックのリワーク(復職)デイ・ケアで実施されるプログラムには、集団認知行動療法(CBGT)やSSTがあります。


認知(思考・イメージ)=心のつぶやき

認知療法が扱う「認知」とは耳慣れない言葉ですが、思考やイメージを指しています。「心のつぶやき」は認知を言い換えたものです。
例をあげてみましょう。
週末に恋人と映画を一緒に観ることにしていたあなたは、約束の時刻には約束の場所に到着していました。ところが、映画が始まるまで待っていても、恋人は姿を見せません。
あなたの中の一人は考えます、「彼って、いつも私を待たしてばかりだわ」
もう一人のあなたは「私のこと嫌いになったのかしら」とつぶやきます。
三人目のあなたは「事故にでも遭ったのでは」と考え、〈彼の運転する車が大破している〉のが、ありありと目に浮かぶのです。
重要なことは、それぞれの思考やイメージが特定の感情や行動と結びつくことです。「彼って、いつも私を待たしてばかりだわ」と考えたあなたは、怒りのあまり、一人で先に映画を観ようと急ぐことでしょう。
「私のこと嫌いになったのかしら」とは、悲しいつぶやきです。あなたは早々に家に帰り泣き始めるかもしれません。〈彼の運転する車が大破している〉イメージは強い不安をよび覚まし、あなたは右往左往するばかりでしょう。

  • 彼っていつも私を待たせてばかりだわ。…怒り ⇒ 一人で先に映画を観る
  • 私のこと嫌いになったのかしら…悲しみ ⇒ 早々に家に帰り、泣く
  • 事故に遭ったのでは。~彼の運転する車が大破しているイメージ~…不安 ⇒ 右往左往する

自動思考 automatic thoughts , スキーマ schemas

認知療法の基礎にある認知モデルは、認知と感情・行動との関連についてこう考えます。「ある個人の感情と行動は,その人が自分のまわりで起こる出来事をどう考えるか(認知)によって規定される」。認知療法で重視される認知は自動思考とスキーマです。自動思考は、何らかのきっかけがあるとそれに伴って自動的・習慣的に、意図せず脳裏に浮かぶ思考やイメージのことです。スキーマあるいは信念は過去の経験から形成され、恒常的で、個人に特異的な認知です。


中核的信念 core beliefs (Beck AT, et al.: Cognitive Therapy of Substance Abuse, 43-44, 1993)

スキーマ(信念)のうちで重要なものを示しました。「私は無力である」というスキーマと「私は愛されない」というスキーマが、最も根底にあるスキーマ(中核的信念)とされています。

  • 私は無力である
  • 私は劣っている
  • 私は弱い
  • 私は失格である
  • 私は役立たずである
  • 私は落伍者である
  • 私は愛されない
  • 私は社会的に好ましくない人間である
  • 私は嫌な奴である
  • 私は拒否されている
  • 私は変わっている
  • 私には社会的欠陥がある


認知療法における宿題

認知療法は、治療場面と日常生活場面を自由に行き来する形で行われます。治療場面が日常生活場面に働きかけ、日常生活場面から治療場面にフィードバックしていくために、認知療法ではホームワークを重視します。